ライブ・ドキュメンテーション──話しながら記録を残す技術

会議が終わったあとに議事録をまとめるのは意外と時間がかかります。プログラムを完成させてから仕様書を作ろうとすると、「どこをどう変更したのか」を思い出すのも大変です。しかし、もし話しながら議事録が完成し、作りながら仕様書も同時にできあがるとしたらどうでしょうか。それが「ライブ・ドキュメンテーション(Live Documentation)」という発想です。

ライブ・ドキュメンテーションとは、思考・発話・記録をリアルタイムで統合する手法です。議事録担当がメモを取るのではなく、会議の進行に合わせてその場で文書を更新しながら合意を形成します。IT開発の現場でも、コードと仕様書を同時に更新することで、思考の流れがそのまま形になることがあります。

構造を先に用意し、その枠を会話や作業の中で埋めていく。これにより、思考の一部を外に預け、現実と記録を同時に進化させることができます。アンディ・クラーク(2011)は、人の知能は身体や環境と拡張的に結びついていると述べ、こうした外部化を「拡張認知」と呼びました。

リアルタイムで記録を共有することで、その場で確認・修正・承認が行いやすくなります。ヴィゴツキー(1987)は、人の思考は言語的対話によって発達すると説きました。つまり「話しながら記録を残す」ことは、チーム全体の知的能力を拡張する行為でもあります。

ライブ・ドキュメンテーションの目的は、「会議が終わる瞬間に成果物が完成している」状態をつくることです。書くことが行動と一体になったとき、私たちは“考えるスピードで形にする”働き方に近づくのです。

参考文献: Clark, A. (2011). Supersizing the Mind.; Vygotsky, L. S. (1987). Thought and Language.; Norman, D. A. (1988). The Design of Everyday Things.; Friston, K. (2010). The free-energy principle.; Sellen, A., & Harper, R. (2002). The Myth of the Paperless Office.