自己理解を深める心理学・行動科学

人が「自分を知る」とは、どのようなことなのでしょうか。古代ギリシャのデルフォイ神殿には「汝自身を知れ」という言葉が刻まれていますが、心理学の歴史においても「自己理解」は常に中心的なテーマでした。

20世紀初頭、フロイトが提唱した精神分析は、無意識の存在を明らかにし、「自分で気づかない自分」を知るという新しい視点を開きました。その後、行動主義心理学は観察可能な行動に焦点を当て、内面を排除しましたが、1950年代の「認知革命」によって、再び心の働きに注目が戻ります。

現在では「自己概念」や「自己効力感」など、自己理解を支える多様な理論が存在します。たとえば、バンデューラの自己効力感理論では、「自分にはできる」という信念が行動を導くとされます。また、ビッグファイブ理論では、人の性格を外向性・誠実性・開放性・協調性・神経症傾向の5次元で捉え、自己理解やキャリア設計に応用されています。

さらに近年では、行動科学の発展により、行動パターンや選択の傾向を客観的に測定できるようになりました。スマートフォンやウェアラブルデバイスによる「デジタル行動ログ」は、新しい自己理解の形とも言えるでしょう。

人が自分を理解するとは、固定された「答え」を得ることではなく、状況や関係の中で「変化する自分」を観察し続けることでもあります。心理学はその道具のひとつにすぎません。自分を知る旅は、常に現在進行形です。