共感と心理的安全性の科学

「共感(empathy)」は、現代社会のキーワードの一つです。SNSの時代には「共感されること」が可視化されやすくなりましたが、心理学ではより深い意味を持ちます。

神経科学的には、共感は「ミラーニューロン」の働きと関連づけられています。他人の表情や動作を見ると、自分の脳でも同様の神経活動が起こる――これが「共感の神経基盤」です。つまり、私たちは他者を“感じ取る”生物的な能力を持っているのです。

しかし、共感には種類があります。「感情的共感(相手の感情を一緒に感じる)」と「認知的共感(相手の立場を理解する)」です。過度な感情的共感は共感疲労を招きやすく、組織やチームでは「認知的共感」とのバランスが重要になります。

この考え方は、近年注目されている「心理的安全性(psychological safety)」の理論にもつながります。Googleの社内研究では、心理的安全性の高いチームほど創造性と成果が高いことが報告されています。メンバーが自分の意見を安心して表現できる環境――それが信頼の基盤です。

共感は単なる感情の共有ではなく、「相手の世界を尊重する知的な行為」でもあります。心理的安全性の確保は、その知的な共感を社会の単位にまで拡張したものと言えるでしょう。この2つの研究領域は、個人の幸福だけでなく、組織文化の成熟にも深く関わっています。