防災の「ローリング・ストック」という言葉をご存じでしょうか。日常生活の中で食料や日用品を定期的に使いながら、使った分を補充していく方法です。「ため込む」のではなく、「回して保つ」。この考え方は、暮らし全体に応用できる発想です。たとえば「遊びながら片付ける」——これもまた、ローリング・ストックの考えを日常に転換した「ローリング・プレイ」と呼べるかもしれません。
片付けを苦手に感じるとき、その背景には「終わりのないタスク」としての重さがあります。しかし、使う・整える・また使う、という循環のリズムができると、片付けは「終わらせる作業」ではなく「流れの一部」になります。グレゴリー・ベイトソン(1972)は、人間の思考や行動を「生態系の一部」として捉え、秩序と無秩序のバランスの中で創造性が生まれると述べました。片付けも同じで、「きれいに保つこと」よりも、動きのある秩序を保つことが大切です。
子どもが遊んだあとのおもちゃを片付けるとき、「遊びが終わったから片付ける」という区切りをなくすと、ストレスが減ります。遊びの中に片付けの動作を組み込む、つまり行為と整理を一体化するのです。チクセントミハイ(1990)の「フロー理論」では、人は努力を意識せずに没頭しているときに最も幸福を感じるとされます。片付けが“作業”ではなく“遊び”に感じられたとき、行為そのものが楽しみになります。
散らかりは悪ではなく、生活のエネルギーの痕跡でもあります。ドナルド・ノーマン(1988)は、道具の配置や痕跡が人の思考を支えると述べました。散らかりの中には思考や創造の過程が刻まれているのです。完璧な整頓ではなく、必要なときに取り出せて流れが滞らない状態を目指すことが重要です。
ローリング・プレイとは、「整えること」を生活の呼吸のように取り入れる考え方です。小さな単位で回し、回す対象を限定し、動きやすくするために整え、共有する。これらの工夫で、片付けは“終わりのある行為”ではなく“流れをつくる行為”になります。
参考文献: Bateson, G. (1972). Steps to an Ecology of Mind.; Norman, D. A. (1988). The Design of Everyday Things.; Csikszentmihalyi, M. (1990). Flow.; 近藤麻理恵(2010)『人生がときめく片づけの魔法』。