第1回:個人輸入とは何か —— 誤解されがちな「グレーゾーン」の正体

はじめに

「海外から薬を買うのは違法ですか?」
この質問を受けるたびに、多くの人が“なんとなく危ないこと”だと思っていることに気づきます。

 

結論から言えば、「自己使用のため」であれば個人輸入は合法です。
ただし、販売や転売を目的とした輸入、医師の処方が必要な薬の大量購入などは、
薬機法(医薬品医療機器等法)で厳しく制限されています。

 

本記事では、厚生労働省・税関・薬機法の一次資料をもとに、
「どこまでが合法で、どこからが違法になるのか」を整理します。

 

1. 「個人輸入」とはどんな行為を指すのか

厚生労働省によると、個人輸入とは「外国の製造業者や販売業者から、自分で使用するために直接購入すること」を指します。
つまり、商売目的での仕入れや、他人への販売・譲渡を目的とする場合は個人輸入ではなく、
「販売業」として薬機法の許可が必要です。

– 自分が使うために購入 → 合法
– 他人に販売・譲渡するための購入 → 違法

この“自己使用”というキーワードが、すべての線引きの基準になります。

 

出典:厚生労働省「医薬品等の個人輸入に関する注意事項」
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/kojinyunyu/050609-1.html

2. 法律上の根拠:薬機法第68条

医薬品医療機器等法(薬機法)では、
第68条において「販売業の許可を受けない者が医薬品を販売・授与してはならない」と定められています。

一方で、厚労省の解釈通知により、
「個人が自分で使用するために輸入する場合」はこの販売規制の対象外とされています。

ただし、以下のような制限があります。

分類 / 主な制限内容
・一般医薬品(市販薬):1回の輸入量は2か月分以内
・処方箋医薬品:医師の処方があっても原則輸入不可(例外的に個人輸入申請が必要)
・医薬部外品・化粧品:1回の輸入量は標準サイズで24個以内
・医療機器:種類によっては薬監証明の取得が必要

これらは「安全性」と「適正使用」を担保するための最低限のルールと考えられます。

出典:医薬品医療機器等法(薬機法)第68条(e-Gov)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000145#Mp-At_68

3. 「薬監証明」とは何か

医薬品を海外から輸入する際には、「薬監証明(やっかんしょうめい)」が必要になる場合があります。これは、輸入する医薬品が日本で承認されているかどうかを厚労省が確認するための手続きです。

・海外でしか販売されていない薬
・医師の処方が必要な薬
・医療機器や特定のサプリメント

これらを個人で輸入する場合には、地方厚生局への申請が求められます。
申請後、問題がなければ薬監証明書が発給され、これを税関に提出して輸入が可能になります。

出典:厚生労働省「薬監証明申請に関する案内」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000178433.html

4. 税関の判断と没収のリスク

税関は、厚労省の指導に基づき輸入品の審査を行います。
もし輸入した薬が「販売目的」とみなされた場合、または輸入量が基準を超えている場合、没収や廃棄処分になることもあります。

出典:財務省関税局「医薬品等の個人輸入に関するご案内」
https://www.customs.go.jp/mizugiwa/kinshi/yakkan.htm

5. 「個人輸入代行業者」とは?

多くの人が実際に利用しているのは、海外の販売業者と日本の消費者をつなぐ「個人輸入代行業者」です。これらの業者は購入手続きを代行するのみであり、医薬品の販売業者ではありません。

出典:厚生労働省「個人輸入代行業者を利用する場合の注意点」
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/kojinyunyu/050609-1.html#dai5

6. 「グレーゾーン」と呼ばれる理由

個人輸入が「グレー」と言われる背景には、法的に認められていても、監視・管理が行き届きにくい現実があります。

・薬の品質を国が保証できない
・偽物(コピー薬)のリスクがある
・個人輸入代行業者の責任範囲が不明確

出典:PMDA「医薬品等の個人輸入に関する注意喚起」
https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/foreign-medicine/0001.html

7. 安全に利用するためにできること

1) 公的機関の安全情報を確認する
2) サイト運営情報を必ずチェックする
3) 医薬品名・成分表記が正しいか確認する
4) 初回は少量から試す

まとめ

個人輸入は、医療アクセスが限られる人々にとってのライフラインであると同時に、誤解されやすい制度上のグレーゾーンでもあります。法令と行政の一次情報を正しく理解すれば、その仕組みは決して不透明なものではありません。

 

第2回:日本の制度が生んだ“受診できない人たち”——医療アクセスの現実

 

出典一覧
・厚生労働省「医薬品等の個人輸入に関する注意事項」 https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/kojinyunyu/050609-1.html
・厚生労働省「薬監証明申請に関する案内」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000178433.html
・財務省関税局「医薬品等の個人輸入に関するご案内」 https://www.customs.go.jp/mizugiwa/kinshi/yakkan.htm
・医薬品医療機器等法(e-Gov) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000145
・PMDA 注意喚起 https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/foreign-medicine/0001.html